私くしは暫くその世界を見ながら、そのメロディーに聞き惚れておりましたら、そのメロディーに混じって人の声が聞こえて来たような気がしたのです。…が誰も居ないのです。
「何か気のせいかな」とも思ったのですが、その時なのです。又何処からか何とも言えない香りが漂って来たのです。
「あー、何と言う良い香りなんだ。これが天上界の香りと言うものなのかな。」瞬間そう思いました。
自然に身体がジーンとして来て、うっとりとなってしまい、とろけてしまうのではないかと思ったくらいです。
しかし、その時、
『そんな事で満足している時ではない。真の法を唱えている者が、これぐらいの事で驚いていてどうする。しっかりしなさい。その為に今まで色々な実践と知識を身に付けて来たのではないのか。』と言うような声が、私の胸の中に聞こえて来たような気がしたのです。
「そうだ…、その通りだ。これも私の信心をお試しになられているのかも知れない。
何と言う愚か者だ。しっかりしろ。」私は自分に言い聞かせました。
実は以前にも、こう言う事があり、その時はあまりの素晴らしさに、フラフラになってしまっておりました。
「今度は大丈夫だぞ。よし、これを機会にゆっくり探訪させて頂こう。」
そう思うと急に又、勇気が出て来て楽しくなって来ました。
その時また、鈴を振るような美しい音色の声で人の声が聞こえて来たのです。
『貴方は、この世界の方ではありませんね。』
と何かを確認するような口調でもあるように思えました。
「はっ、はい。」
私は思わず反射的にそう答えて横を見ると、又これ何と美しいの何のって、ビックリするほどの女性が立っているではありませんか。
開いた口がふさがらなくなったと言うのは、この事を言うのではないかと思いました。
驚くなと言う方が無理です。こんな凄い美人は見た事がない。何と言って言葉に表わして良いのやら言葉に絶します。
まあ、天女とでも言っておきましょうか。顔と言い、肌と言い、姿と言い、着ている衣装と言い、天女としか言いようがないのです。後は御想像にお任せ致します。
すると天女云わく、『私くしが、これより御案内致します。』これも鈴を振るような美しい声で言うのです。
「だが待てよ…。」不思議な事にあまり口を動かしているようには見えないのです。
「すると一体、声はどこから出ているのかな。」
ただ私に向かって優しく微笑みかけ、その目が何とも魅力 的なのです。
「〔目は口ほどにものを言い〕と言うが目かな。そんな馬鹿な…。」そう思いました。
しかし、後で考えてみれば不思議でも何でもなく、仏法から見れば当たり前な事なのです。
つまり、これは人間的意識から見るからそう思うのであって、人間は肉体的意識と霊的意識の二つを備えているのです。
肉体的意識とは「五感」を言います。
そこで感じたものを自分の頭で考えられる範囲の能力を言うのですが、これとは反対に霊的意識とは肉体とは別に自分の生命、つまり霊が持っている能力の事を言います。
肉体がなくなった後は霊的能力がすべてとなっていくのですが、これは肉体的能力に比べ、その数十倍の能力を持っています。
人間である時は肉体があるから、あまり発揮できませんが、それでもけっこう用いているものです。直感とか霊感とか言われているものも、そのひとつです。
また霊界人になってもなりたてには、霊的意識の中に人間的感覚が残っていて、霊的意識に中々目覚めようとしません。
これを〔死がら身〕と言っておりますが、本当に霊になってしまえば、すべて心に思うだけで相手と交信が出来てしまいます。これが声のようになって、相手の胸に響いて来るのです。この一念の波動と言うものは、自分のコントロールによって、無限までにも届くとも言われており、天女の声もこの原理なのです。
口も動かないのに声が聞こえて来る…つまり天女が心で思った念が、波動となって私くしの胸に声のように響いて来たと言う事なのです。
しかし私くしは肉体を人間界に置いて来ている幽体離脱 の状態ですから、人間と同じような感覚でものを考えてしまう為に不思議だと思ってしまうだけで、霊界では当たり前な事なのです。
この事は又、後の頁で述べることに致しますので話を戻します。