「何処へですか?」私がそう言いますと、天女は黙って顔に笑みを浮かべ、「どうぞ」と言わんばかりに、会釈するようなボーズをしました。
「分かりました。」私くしがそのように思った時、急に身体が浮上し始めたのです。
「あれあれ?一体これ…どうなっているの…?」
「前に歩くと思っていたのに上にあがったちゃった。でも良い気持ちだー。」
私くしは以前に空を飛ぶ夢をよく見た事があったのですが、それよりも実感的です。
もっと若かったらハングライダーに乗ってみたいと思った事さえありますが、そんな気持ちでしょうか。その時は別に驚く事はありませんでした。
すると天女は、前を私よりも少し高めに先に立ち、舞を舞うように静かに上がって行きました。そして私も同じように一定の間隔を保って上がって行くのです。
私は「別にヒラヒラも何もしないのに、どうして上がって行くのかな…」と思いながら、格好がつかないので宇宙遊泳みたいに腕を広げてみたりしたのですが…。これが本当の宇宙遊泳でしょうね。
不思議なもので、そよそよと風に良い香りが漂って来ます。どうやら、この香りは天女の肌から漂って来るように思えます。
「これはやはり生命の香りかも知れない。霊格が高くなればなるほど生命の香りは、素晴らしいものになって行くと言うが、これだな。」
今までいた世界を下に見ながら、どんどん上がって行き、あんなに高く見えた連山も、段々小さくなって行くのです。別荘のように見えた建物も、もう見えなくなってきました。
私くしは、そこまでは覚えているのですが、それから後が分からなくなってしまいました。
それから、どのくらいたったのか、よく分かりません。
何かが私くしの顔を撫でているような感じに気が付き、自分が光の中に居るように思っておりましたら、目がだんだん馴れてくるに従って辺りが見えて来ました。
同時に自分の感覚が元に戻って来たように思えました。
何と自分はお花畑の真ん中で、ふわっとした何とも言えない感触の良い〔安楽椅子〕のような上に、足を伸ばし斜め上に向いて、両腕を肘掛けに置き、ゆったりとくつろいで居るような姿勢でおり、一瞬どうなっているのか良く分かりませんでした。
そして少しずつ良く見てみると、それは花畑ではなく何処か、お城の庭園のような所でした。
「なんじゃー、 これは…。空飛んでいた自分が何故こんな所にいるんだ。分からない。」若干、途惑いました。
「落ち着け、落ち着け。」自分に言い聞かせました。そして尚、良く見てみるのですが、どうも、ある一定の距離しか見えません。
「自分の感覚がおかしくなってしまったのかな。それとも、一定の距離しか見えないようになっているのかも知れない。」
先ほど私の顔を撫でたように思えたのは、上からチラチラと降って来る桜の花に良く似た白い花びらでした。
「これが天上界に咲くと言う、曼陀羅華と言う花なのかな。」そんな事も考えてみました。
そして辺り一面は、色とりどりに、競うように咲いている花々や噴水などが見え、その向こうには、透き通る程の青空に届くような金銀・宝石で出来ているような、何と言いますか…凄いとしか言葉では表現できない宮殿が、そびえ建っているのが見えました。
そして地面と言い、辺りの風景と言い、すべてが光り輝いているのです。まさに光の世界なのです。
この様な高い世界は、まだまだ私くらいの生命状態ではひとつひとつ、はっきりと見定める事が出来ないのかも知れませんし、また幽体離脱ですからハッキリと見せて頂けないのかも知れません。
いずれにしても我々が成仏と言う目標を目指して、真実の仏法を修行して行く上に於いて、ひとつの手段として見せて下さっているのかも知れません。