四悉檀とは、竜樹菩薩が『大智度論』において仏の教法(説法)を四つに分けて説明したものです。
天台大師の『法華玄義』には、悉檀の言葉の意味について、
「悉の言は遍なり、檀は翻じて施と為す。仏、四法を以て遍く衆生に施す。故に悉檀と言うなり」(法華玄義釈籤会本 上―119頁)
と説明しています。
すなわち、「悉」とは遍くすべてに及ぶの意、「檀」とは施すの意であり、悉檀とは仏がすべての衆生に対して利益を施すこと、またその方法を意味します。
仏は衆生を導くために方便を含むたくさんの教えを説かれましたが、それは、仏が四悉檀を用いて法を説いたからです。
四悉檀とは、世界悉檀・為人悉檀・退治悉檀・第一義悉檀の四つです。
一、
世界悉檀(楽欲悉檀)
世間の衆生の望んで欲するところ、人々の心に従って法を説いて歓喜させ、利益を与えて導く方法。
二、
為人悉檀(生善悉檀)
各各為人悉檀とも言い、仏がそれぞれの衆生の能力・性質などに適した法を説き、衆生の善心・善根を増長、または生じさせていく方法。
三、
退治悉檀(断悪悉檀)
間違った考えを改めさせて、煩悩や悪業に応じた方法によって悪を断じて退治すること。衆生の三毒(*1)を退治させるために、貪欲の者には不浄観、瞋恚の者には慈悲の心、愚痴の者には因縁等を説いて観じさせること。
四、
第一義悉檀(入理悉檀)
前の三つが段階的な化導方法であるのに対して、第一義である真実の法を直ちに説いて、衆生に真理を教え悟らせること。
世界・為人・退治悉檀の三つは、第一義悉檀へと導くための段階的な方便の化導であり、厳密には真実とは言えません。『大智度論』には、仏が種々の法を説くのは、第一義悉檀を説くためであると示されており、最後の第一義悉檀が最も重要になります。
摂折二門とは摂受門と折伏門のことです。
摂受は摂引容受の義で、それぞれの機根に合わせた教えを説き、相手の誤りを直ちに破折せずに、次第に誤りを破して真実に誘引する方法です。
折伏は破折屈伏の義で、邪義を許さず、直ちに悪法を破折して正法に帰依させることです。
四悉檀を摂折二門に配すると、世界悉檀・為人悉檀の二つが摂受門、退治悉檀・第一義悉檀の二つが折伏門になります。
天台大師は『法華玄義』に、
「法華は折伏して権門の理を破す」(法華玄義釈籤会本 下―502頁)
と説かれており、法華経は唯一の真実の教えであるため、法華経を説くことは必ず爾前権教を破折する折伏の化導となります。
しかし、正法・像法時代の衆生は、過去世に妙法との下種結縁がある本已有善の衆生であり、その場合には法華経文上以下の熟脱の教えによって段階的に導くという、摂受を用いられました。
総本山第二十六世日寛上人は『末法相応抄』に、
「末代は本未有善の衆生にして是れ下種の時なり、故に世界・為人を廃して退治・第一義を立つ。宜しく諸宗の邪義を破して五字の正道を開かしむべき故に、末法に於ては摂受門を捨てて折伏門を用うべし」(六巻抄128頁)
と、正像時代とは異なり、末法の衆生は過去世において妙法の下種結縁がない本未有善の衆生ですから、邪義邪宗を許すことなく折伏を行じ、本因下種の妙法を下種すべき時であると説かれています。